眞渡 寛さん

家業に対する葛藤

島に帰ってきたのは、去年の冬なのでもう一年半くらい経ちますかね。
高校生活を送っていたころの昔に比べると、だいぶ雰囲気が変わったなと感じます。
僕は離れていたのも10年近いので、感覚的には移住者の方に近いかな。でももう少しUターンの人も増えるといいですよね。

学生の時は、今のように”ここを継いでいこう”っていうイメージはあまり無かったんですよ。
真里は僕の祖母が民宿として始めて、僕の代で3代目ですね。昨年創業50年を迎えたんですけど、今の様な高級宿になったのは僕の父親の代からなんです。
その切り替えの忙しい時期が、僕がちょうど中学校くらいの時で。自分も思春期だった事もあるんですけど、家族でいる時間っていうのがあまりなかったんです。思春期ど真ん中だったのでそういう家族の時間の共有がない事で1人で勝手にギクシャクはしてたと思います。ということもあって、当時はそんなに家業に良いイメージがもてないままでした。でも長男だし‥という中途半端な気持ちのまま調理師の専門学校に入るために京都へ行きました。
結局、そんな風に僕の決意が緩かったのもあって学校も中退しちゃって。
でも今こうやって、父親と同じ土俵に立ってみると、当時は「かまってくれなかったなぁ」なんて思ってましたけど、家族や一緒に真里を支えてくれている従業員を守る為に必死にやってくれていたんだなと思いました。

島から出たことで自分の生き方の基盤が出来た

専門を中退したあとは、縁あって好きなバンドの現場マネージャーとして、もともと興味があった音楽業界に携われるようになりました。ただ、それで食えて行けたわけじゃなくて、バイトを掛け持ちしながら休みの日に好きな事をやっているっていう感じでしたね。
そんな不安定な状態でしたけど、好きな事やれているの感覚は強かったので、全然キツくは無かったんです。むしろ、ライブに来たお客さんをどうやって喜ばせるかとかそういう体験をさせてもらって、それが今の接客業に繋がっているところもあります。
その時に得た経験が、自分の今の考え方の基盤みたいなものになっている気がしますね。
それだけ楽しかったし、充実してたんでずっと続けたかったんですけど、バンド自体も(海外ツアーやテレビに出演したりで)人気が出てきて、もっとちゃんとした人がサポートしていかないとってなって。
ちょうどそんなタイミングで父が体調崩した時期があって、外に向いてた意識が初めて内向きになり、自分の将来について色々と考え直すようになっていきましたね。
バンドの方は素人スタートの僕なんかよりスキルをもった代わりとなる人はいるけど、島の家業として”受け継ぐ”って事は自分しか出来ないことだなって思い始めて。それまで好きな事を自由にやらせてもらって、ある種諦めがついたみたいなこともあったんで、このタイミングで帰って家業を継ごうっていう決意が固まって帰ってきました。

移住者も地元の人ももっと分け隔てなく交流できたら

一度離れてたのも結果的には良かったですね。
島に対してマイナスに感じてた部分がプラスに思えるようになりました、そのマイナスっていうのも不便を単なる不便として思ってただけで。都会にあるようなものは少ないけど、何もないから何でもできるなって思えるように、気持ちが切り替わってきたからかもしれません。
島の繋がりも最初は同級生くらいやったんですけど、移住者の方がやってる新しいお店も増えていて、そこから新しく島内のコミュニティが広がったり。
僕が住んでる苗羽(のうま)って地区は、もともとフレンドリーな人が多いんですよ。まあ元々育ったところってのもあるんですが、色々ほんとに良くしてもらっています。地域の行事は今の仕事の兼ね合いもあり、お祭りくらいしか参加できていないんですが、今後はそういうのにも参加してて地域の人とももっと交流していきたいですね。
よく言う島の人の移住者に対する隔たりっていうのも、昔に比べると感じなくなったと思います。
ただ、お互いの話を聞くと、少なからず考え方や生活スタイルにギャップを感じたりする人もいるみたいですね。そういう面でいえば逆に自分は両方の立場や考え方が分かるので、間に入って潤滑油のような感じになれればなと思っています。
今後はここに働いているスタッフ達と一緒に真里という場所を通して、小豆島の魅力を発信していけたらいいなと思っています。

もちろんここだけじゃなく、島内の色んな人達と自分達のフィールドで出来ない事をお互い補完し合って盛り上げていけるようにしたいです。
僕自身やりたい事いっぱいあります。まだ今は自分の事でいっぱいいっぱいで、なかなか形にしていけてないんですけど。これからは自分達が島の将来を担っていく世代ですからね。そこは責任感をもってみんなで一緒にやってきたいです。

(2020年2月27日インタビュー)

プロフィール
眞渡 寛(まわたり ゆたか)
1986年 小豆島生まれ
高校卒業後、離島。京都・東京の生活を経て2016年に稼業を継ぐために香川にUターンし、現在は「島宿真里」の3代目として修行中。主に、昨年オープンした「海音真里」で働く。
趣味は音楽。休日は島内のお店を散策する事が多い。

島宿 真里

島宿 真里
https://shimayado.mari.co.jp/

海音 真里
https://uminoshijima.com/

インタビュー取材・文担当。小豆島出身、進学のため島を離れ、大学卒業後東京で約10年アパレル関係会社で勤務。2017年に小豆島へUターン。現在はpizza kamosでの店舗プロデュースをメインにプランナーとして活動中。

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